敏腕弁護士との政略結婚事情~遅ればせながら、溺愛開始といきましょう~
普段から事務所で聞き慣れている、事務員の声だ。
わざわざ名乗られなくても、誰だかわかる。
「お疲れ様です、三田村さん。なにか?」
櫂斗がそう言う横で、聖子が身構える気配がした。
彼の応答で、『所長の娘』と察したのだろう。
なぜか息を殺しているのを、空気の振動が教えてくれる。
もちろん、電話の向こうの相手に、そんなものは伝わらない。
『あの……裁判終わったばかりでお疲れのところ、大変恐縮です。所長が、お話したいことがある、と申しておりまして』
「え?」
たった今、アシスタントに『直帰』を許可した所長が自分になんの用だ?と、やや首を捻る。
もしや行き違いではと思ったが、今はむしろ好都合だ。
「わかりました。すぐに戻ります」
どこまでも申し訳なさそうな声には、淡々と答える。
相手の返答を待たずに、電話を切った。
「すみませんが、僕には事務所に戻る用ができました。ここで解散しましょう」
酷くがっかりした顔の聖子を気にせず、上着のポケットにスマホを捩じ込む。
「君は、ゆっくり休んでください。お疲れ様でした」
「あ、須藤せんせ……」
彼女の声を振り切るように颯爽と階段を降り、大通りに出ていった。
わざわざ名乗られなくても、誰だかわかる。
「お疲れ様です、三田村さん。なにか?」
櫂斗がそう言う横で、聖子が身構える気配がした。
彼の応答で、『所長の娘』と察したのだろう。
なぜか息を殺しているのを、空気の振動が教えてくれる。
もちろん、電話の向こうの相手に、そんなものは伝わらない。
『あの……裁判終わったばかりでお疲れのところ、大変恐縮です。所長が、お話したいことがある、と申しておりまして』
「え?」
たった今、アシスタントに『直帰』を許可した所長が自分になんの用だ?と、やや首を捻る。
もしや行き違いではと思ったが、今はむしろ好都合だ。
「わかりました。すぐに戻ります」
どこまでも申し訳なさそうな声には、淡々と答える。
相手の返答を待たずに、電話を切った。
「すみませんが、僕には事務所に戻る用ができました。ここで解散しましょう」
酷くがっかりした顔の聖子を気にせず、上着のポケットにスマホを捩じ込む。
「君は、ゆっくり休んでください。お疲れ様でした」
「あ、須藤せんせ……」
彼女の声を振り切るように颯爽と階段を降り、大通りに出ていった。