敏腕弁護士との政略結婚事情~遅ればせながら、溺愛開始といきましょう~
本当に厳重に、人払いしているようだ。
室内に入り、ソファに腰を下ろした櫂斗に、所長は事務員を呼ぶことなく、自らコーヒーを振る舞った。


「ありがとうございます」


事務的に礼を言いながら、櫂斗は対面のソファに座った所長を上目遣いに探る。
それを意識してか、所長がわずかに口角を上げた。


「直帰でいいと言っておいて、すまなかったな。彦田君と、お祝いにディナーに行こうなんて話してたかな?」


直球で憚りもしない言葉に、櫂斗はわずかに苦笑する。


「所長。なにを勘繰ってらっしゃるんですか」

「所内の方方で耳にするんだよ。君と彦田君の噂。須藤君、いつも彼女をアシスタントにするしねえ」


嫌らしく探り入れられ、ひくりと頬を引き攣らせた。


「アシスタントなんて、誰でも構わない。彼女が毎回志願してくれるだけで、僕が指名したことは一度もありません」

「須藤君は、来る者拒まず……という男か」

「……所長」


櫂斗はやや憮然として、所長に視線を返した。
聖子が積極的なせいで、所内で噂されているのは知っている。
本当にどうでもいいから放っておいたが、まさか所長から話題にされるとは……。


「ご存じでしょう、僕が何件の訴訟を抱えているか。裁判に勝ったくらいで、一パラリーガルと、浮かれてお祝いする余裕などありません」
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