屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜




「 ―― ホントだ!!
あんまり、くさくな〜い!! 」

「 あんまりなのかよ! 」




スポットひとつの、薄暗い部屋

マイクを握り、はしゃぐあずると
年季の入った煤けた壁に、爆笑する声


「 こっちも無臭だ!!
―― オイ、トオヤ こっち来いや 」


「 … え 」


「 そんな隅っこで座ってないで
マイクあるんだから歌えよ 」




「 … 真木さんは俺の事
何だと思ってるの 」


「 ―― ナニってオマエ…
"CheaーRuu" 灰谷遠矢
ヴォーカリストだろ? 」


「 … "東京都在住、学生、灰谷遠矢"
『Azurite』の 大ファンだよ 」




アンプとアンプの間で体育座り
膝の前で、緩く指を組む姿は
出会った時と変わらない


真木は苦笑し、ため息をついて
それ以上については、何も言わず

指を鳴らして
エフェクターボックスを開き
チューニングを始めた




帯の後ろから魔法の様に
スティックを取り出した池上

シンバルを片手で押さえながら
椅子の位置を、何度か変えている




「 トオヤ… 」


「 … ん? 」


「 やっぱりさー… 歌おうよ… 」


「 … 見られてるの
平気だって言ってたじゃん 」


ニヤリと笑った灰谷を
あずるの鋭い蹴りが襲う


「 外でやれ!クソガキども!!!! 」




演奏は、雑談の途中

池上のカウントが鳴ると
それを合図に 自然に始まった ―――







< 107 / 234 >

この作品をシェア

pagetop