屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜
厨房から、おやじさんの声
「 ―… 行って来るね 」
「 お前は座ってろ、俺が行って来る 」
あの様子だと水どころか
ラーメンを頭からぶっかけかねない
「 通路側だし、僕行くよ〜」
池上が立ち上がり
すぐに盆に乗せられた、注文の品々が到着
すると後ろから
『 あ、どうも 』と言う挨拶が聞こえた
「 どうも〜 お疲れ様! 」
「 一人っすか、他の人は 」
また振り返りそうになるあずるの頬を
両手で挟んで、面白い顔にする
「 あ、帰ったよ〜 」
「 なんだ… ベースの人いないんだ
… なんか、あなたドラム
かなり上手いっすよね 」
「 ありがとう〜 」
「 あ… そうだ!
俺、質問あるんだけど、いいですか? 」
「 はい 」
「 俺、ドラマーなんですけど
ダブルストロークとかって
なんか、ウザイって言うか…
結局、どうするんですか 」
「 えと…
教則本とかにも、よく書いてある事しか
上手く言えないんだけど
二つ目が弱くなるのはどうしてもだから
一発目の跳ね返りの後、意識して… 」
「 うん、それは知ってます 」
「 やったほうが早いかな
こんな感じで、RR、LL、RR、LL
んでたまに、こうやって… 」
通路側に、少し寄せた丸椅子
痩せたクッション部分を太鼓に見立てる
「 ――… やべえ!
この人やっぱり上手え!!!」
「 ふぅん…
やっぱり練習するしかないのか…
何年くらい…続けてるんですか 」
「 小学生から 」
「 …へ〜、きっかけは? 」
「 最初は、お祭りの太鼓覚えたくて 」
「 え、全然違えじゃん 」
「 和リズムだからね
でも、基本と筋力はついたよ〜
あ、注文しなくていいの? 」
「 え… 普通、取りに来るもんじゃ 」
「 おじさんが
一人でやってるから
声かけて、注文してね
お水とかは、そこだよ 」
「 声… 」