屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜




背中を、ギュッと握る指に
自分の右手を重ねた




「 … あずる 」


「 リュ…! 」


「 階段の下に
ベースが置きっぱなしなんだ
――― ここまで、頼めるか? 」




「 …… はい 」




あずるはコクリと頷き
鵜野さんに伴われ、扉へと歩いて行く




「 惚れた男の頼みなら
何でも聞いちゃうタイプか
あずるちゃんは 」




竹田さんは仕方なさそうに
ふ と息を漏らして笑いながら
その後ろ姿を目で追う




あずるは
一番最初のベースの事を
未だにずっと、気にしている


それを口にすれば
すぐに頷くのは判っていた




本意じゃない


けれど
あずるをこの場から外しても


俺が二人に
聞かなければならない事 ――――




「 ――… 竹田さん

出来るなら
この状況の、説明を下さい 」




「 遥人…!!
あんたが俺達の事を
嫌ってるのは知ってる!!

だけど先生は、全く関係無いだろう?!


…… ユカの時だって ―――

どうしていつもあんたは
関係の無い人達を巻き込む?! 」




「 ――― 関係無いって…?

まあだお前らは気が付いてないのか
だから何時まで経っても
デクノボウだって言ってるんだよ


俺はチャイナタウンで
本当の事を言ったのに 」




「 ――… 本当の事…? 」




何か気がついた様に
灰谷の表情が、一気に変わった




「 ああ…
そういえばあの時
青山は居なかったんだっけ ―――


そうだね…こう言い換えれば
お前にも判りやすいだろうか




"或る日
悪い魔女の仕掛けたトゲが
姫の体に刺さりました


―― そして
混沌とした命の狭間にいる少女に
ある男が耳元で
悪い呪文をかけたのです" 」





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