屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜
「 それからな
これだけは言っとくぜ
悪いのは梅川で ―――
お前さん達はもちろん
水谷君はむしろ奴に罪を
なすりつけられそうになった被害者だ
…彼が居なきゃ、もっとどうにか
なってたかもしれねえんだからな
――― あ、兄さん達
申し訳ないけど、中んじゃなくて
裏の非常階段、使って行こうや 」
竹田さんの肩越し
頷く男達に両脇を抱えられ
扉に向こうに消えて行く
「 足、掠っただけだ
たいした傷じゃねえ、心配いらないよ
お、忘れてた
『お中元のサラダ油セット
重宝してるわ、ありがとう〜っ』て
うちのワイフから伝言な
いいな?ちゃんと伝えたからな? 」
どうして
何故 ――――
頭の中を巡っていた
幾つもの疑問よりも
"傷はたいしたことない"
それを聞いた途端に
ホッとした自分がいる
すぐに横に立つ灰谷へ 声をかけた
「 ―― 灰谷 」
俺自身も
梅川さんの事はショックだった
まだ混乱してる
しかし 梅川さんの "あの言葉"で
全て納得してしまった自分もいるのだ
けれど、灰谷は ―――
「 …そんな顔すんなよ青山さん
俺は平気
――― 遥人!! 」
灰谷の声に
煙草をくわえた水谷が
扉に手をかけ振り向いた
「 用はすんだし、俺も帰るよ
じゃあね
デクノボウと、その不愉快な仲間達 」
水谷は、ニコリと笑い
―― 梅川さんの白衣、胸元から
見慣れた携帯をひとつ、投げて寄越した
着信を知らせるランプ
重い扉の開く音
「 待てよ!!
…青山さん
真木さんにも連絡しないといけないし
俺、ちょっと行って来る
…水谷が言ってた 俺との関係とか
帰って来たら、きちんと話すから… 」