屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜
夕暮れ
「 お、悪いね 」
あらかた 部屋は片付いた
沈み込む様に眠る、あずるはベッド
ソファに座った鵜野さんと俺は
アイスコーヒーを飲む
テレビでは
子供の頃から見慣れた手品師が
失敗と見せかけて大成功する
定番のテーブルマジックを披露していて
沢山の拍手を貰っている
「 しかしまあ…
この人見てて思ったけど
竹田の奴も、だいぶ変わったよなあ
若い頃なら問答無用で
梅川の事、半殺しにしてただろうな 」
「 ―― 竹田さん 」
「 そりゃそうだろ
アタマ張ってる人間にしてみりゃ
信用してた奴の、この"ていたらく"
… こんなに情けない事あるかよ…
青山君もよかったのか?
何も咎めずに帰しちまって 」
「 ――… 」
それでも ――――
あずるや俺の事を
ずっと診てくれていたのは、先生だ
「 … ほら、あいつ
上の奴らと、若い頃揉めて
ずっと医者の世界から干されてたろ?
けどあの兄さん、目の茶色い―――
なんだっけな…ど忘れした… 」
「 真木ですか? 」
「 そうだ、真木君だ
彼の、高校時代の友達がな
偉い医者の息子さんとかで、その口利きと
昔 梅川が研究してた薬が
今まで不治の病だったものに
やたら効くんだかで注目されて
やっと真っ当に、働けるようになった
… 闇やってたなんて噂立ったら
また面倒臭い事になるしさ
だからここ数年、竹田からは
全く連絡、取ってなかったんだ
けど、一昨日位かな
梅川の奥さんから俺んとこに
『そちらに行ってませんか』って
かなり心配したの声の連絡が入って
聞けば、あまり家にも帰って来ないし
最近は診療所も休みっぱなしだって言う
だから夕べ
久しぶりに酒でも飲もうぜって
梅川の事を呼び出したんだがよ
そしたら…
車に乗る拍子、白衣の胸元から
ポロっと黒いモン 落としたのが見えて
――― 途端にあいつ
物凄い早さで逃げ出しやがった 」