屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜
梅川さんから
灰谷の携帯に着信
「 …座れるって 」
「 わかった あずる、行こう 」
「 うん! 」
灰谷が先に立ち
俺はあずるの手を引いて
日の射した、中廊下を渡る
途中 出口へと向かう
賑やかな集団が流れて来て
少しの間、足を止めた
「 ―― リュウジ、来た事あるの? 」
「 ここか? 」
「 うん 」
「 地元がずっと横濱だったから
遠足やなんやかや、全部この辺りだ 」
「 あ!そっかぁ!そうだね! 」
「 ―― 後は、母親と来た 」
「 … お母さん、どんな人? 」
「 ごく普通の… 顔は、俺に似てる 」
「 背が高い?! 」
「 背は親父だな 」
「 お母さん、優しい? 」
「 優しかったよ 」
「 …優し かったの? 」
「 ―― 俺が高校入った年に離婚して
今は新しい旦那さんと、幸せにやってる 」
「 … そっかぁ 」
「 ずっとどこにいるか判らなかったけど
"CheaーRuu"デビューして、少し経ってから
事務所の方に、手紙が来た 」
「 ――… よかったぁ 」
「 うん 」
「 それよりあずる 」
「 ん? 」
「 お前、コーヒー駄目になったのか? 」
「 え… 」
「 さっき
前は凍らせたの、よくガリガリ
一緒に食ってたろ 」
「 ――… あ、 あれは 」
「 … どうした? 」
「 ――… 笑わない? 」
「 笑わないよ 」
「 ―… リュウジの 」
「 うん 」
「 リュウジとのキスが…
いつもコーヒーの味だったから…
… 飲むと思い出して
淋しく…なるから、イヤだったの… 」