密室でふたり、イケナイコト。


──────ガタンゴトン。


収録が終わって、夕焼けの日差しが差し込む電車に揺られつつ、尊人さんの言葉を思い出す。


“ 熱が高くてのどの痛みがひどいから、今日の収録休みますって監督に連絡来たらしいよ?
たぶんあの調子だと、明日の収録もきついかもって他のスタッフさんも言ってた ”


“ 特に風邪を引いた理由は言わなかったらしいけど ”


声優が風邪を引くのは致命傷すぎて。

ましてや、のどなんて────


日頃、気をつけるように言われてるから、たぶん相当怒られたはず……


わたしの方に連絡が来なかったのは、体調が悪かったから…

もしかしたら、連絡するのもつらいほど、ひどいのかもしれない。


成宮のことは高1の時から知ってるけど、体調不良で休んでいるのは、学校でも声優の仕事でも見たことがない。


完全に、わたしのせいだ……

昨日、わたしがずっと成宮のタオル持ってたし、送ってもらったりしたから。

しかもタオル、そのまま持って帰ってきちゃって……

わたしは家に帰ってすぐお風呂に入ったから大丈夫だったけど、成宮はまた駅まで戻って電車に乗らないといけなかった。

あの時、透けてるのなんか気にせずに、意地でもタオル、返せば良かった……


夕方から降り続いた雨は夜になるにつれて徐々に収まっていったのは確かだったけれど、ずっと降りっぱなしなのは変わらなくて。

もしかしたら、わたしが帰った後も1人であそこで雨宿りしてたかもしれない。

夏と言えど、夜になれば気温は下がるし、あんなに濡れてたから、風邪を引く可能性があることだって、考えればすぐに分かったことなのに。


わたし……自分のことしか考えてなかった。

自分のことばかりで、1人で恋がどうとか気にしたりして。


ほんと、バカだ……


それよりも優先すべきことはたくさんあって、

何よりも大事なのは成宮だったのに。


座って下を向いたまま、ぎゅっと唇を噛み締めた。


──────謝らなきゃ、成宮に。

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