ゆうかユスリカ
「あのー……去年はシオン先輩ひとりで作ったんですか?」


「キイ先生とも一緒に作ったけど、設定とかプロットとかは、全て自分で考えたね。
本当に大変だったよ……。
さっきも言ったけど、うちの学校はエスカレーター式で、高校受験も無いのと同然だし、勉強との両立はできたけどね」


「やっぱり、シオン先輩はすげー!
何かこういうのって、ワクワクしてきますね!」


ゆうかも、何かが起こる前触れのようにそわそわしだしているのが伺える。


全員が"今すぐ取りかかりたくて仕方がない"という仕草を取っていたため、シオン先輩の提案で、ジャンルだけ決めることにした。


シオン先輩は3年生だし、俺もゆうかも彼に決めてもらおうと考えたのだが、「皆の意見も聞きたい」ということで、それぞれでアイデアを語り合う。


「一応、俺は恋愛ものでも、ミステリー系でも、何でも書けます。
でも好きなジャンルは感動系なんですよ、家族とかペットに関してだったり。
でも先輩方が執筆した《ユスリカ》って、何とも言えないような感じじゃないですか……やっぱり哲学的なものがいいですかね?」


「うーん、実は《ユスリカ》は実話をベースにしてるんだよ。
だから読んでいて暗い感じにもなるし、それこそゆうかちゃんみたいに涙を流すこともある。
《ユスリカ》とは対照的に明るさにステータスを全振りしたようなお話でもいいかもね」


「《ユスリカ》って、実話をベースにしていたんですね……。
私も明るい話好きですし、それで構わないです。
あ、でも去年の作品と被らないジャンルの方がいいですよね?」


「そうだね。
去年は確か……《彼岸帰り》という和風ファンタジーを書いたよ。
売れ行きも考慮してホラー系は避けた方がいいかもね」


「なるほど……」


話し合った結果、ホラーテイストを避けた感動系に決定し、俺は頭の中でシナリオを思い描く。


感動系ならば、ヒロインが病気だったりする描写や、家族との離別の描写など、思い付くだけどんどんアイデアが浮かんでくるだろう。


そんなことを考えていると、ガラッと図書室のドアを開け、一人の男性がスリッパの音を鳴らしながら室内へと入っていく。


特徴的な寝癖と、眼鏡がトレードマークということで有名な、文芸部の顧問・キイ先生だ。


普段は高校の教師だから中等部に用は無いし、関わったのは入部届を提出して以来だ。


きっとゆうかもそれ以上の関わりはないだろう。


来るか来ないかの瀬戸際だったから、全員が(本当に来るとは思わなかった……)と拍子抜けた表情をする。


その間抜けな表情を見て、色々察したのか、「湿気たカオしてんなぁ」とキイ先生はクスクス笑って見せる。





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