ゆうかユスリカ
《文芸部》と出会ったのは、中学校を入学してすぐのことだった。


家から少しだけ遠い、県の中でも有数の私立中学校に合格した私は、教室で部活選びに迷っていた。


《文武両道》のスローガンを抱える学校だから、部活は強制参加で、帰宅部は無い。


高校とエスカレーター式で、そのまま進級できるくせに、そこだけがネックで溜め息を吐く。


別に、部活自体が嫌いという訳ではない。


ただ、《あの部の先輩は厳しい》だとか《水面下でいじめがある》だとか、クラス中にひっきりなしで飛び交う噂に、頭を悩ませているだけ。


退部も引退まではできないと知り、運動部にしようか文化部にしようか、なんて初歩的な所で躓くばかりだ。


そんな頭を悩ませる私に、声を掛けてくれたのが、幼馴染みの倉野翔(くらの かける)だった。


「もう、どの部活に入るか決まったか?」


「ううん、まだ全然。
入部届け出さなければ、確か課題が出されるんでしょ?
それまでに考えなければって思うんだけど、やっぱり迷うな……」


「まあ、焦るなって。
でも、本当に慎重になるのはゆうかのいいところだよな。
俺なんか部活は即決だったし」


「え!?もう決めちゃったの!!?
3年間はその部活で固定だよ?
何部にしたの?」


「文芸部!
ほら、俺昔から小説書くの好きだったじゃん?
部活の間も小説書けるなんて天国じゃん!?
もう文芸部があるってだけで、俺の青春を捧げるようなものだったね」


へへん、と得意気に笑うクラノの姿を見ていると、つられて私もくすっと笑ってしまう。


クラノとは保育園、小学校からの仲だけど、こんなに2人の性格が違うのに相性が良いのは、きっと私がクラノのこういった性格に救われてきたからかもしれない。


だから、クラノから「お前も文芸部にしてみないか?一緒に小説書こうぜ!」と言われた時には、今まで噂に流されてくよくよしていたくせに、霧が晴れたかのように、その返事に即決してしまったのだ。





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