ゆうかユスリカ
2015年5月16日
翌日、私はクラノに連れられ、文芸部の活動をしている図書室へと向かう。
昨日はベッドに潜り、"私が書き物だなんてできるのかな""人間関係で悩むことになったらどうしよう"だとか、思春期特有の悩みで頭がパンクしそうだったのだ。
それ故にあまり寝付けず、クラノに授業中何度か起こされて、ようやく今の時間帯である放課後になった。
……どうして私がこんなにも心配性なのかと言うと、それは本当に話せば長くなること。
とても鋭く棘のある茨の道を乗り越え、大罪へと巡りついた、そこから私の性格は切り離されたように変わってしまった。
だからこそ、そう言ってはぐらかすことによって私は、こんな私のことを正当化しようとしているのだ。
私の大罪のことは、すぐ側にいるクラノも知っていて、誰にも言いふらさないし、気を遣ってまでいてくれる。
そんなクラノの"文芸部への入部"の誘いだなんて、無下にはできないどころか、断ったらどうなるかなんて後先のことも考えてしまう。
図書室は、まだ文芸部のメンバーが揃っていないのか、滝を打ったように静かだった。
クラノに手を引かれ、私は図書室のカウンターの前にある机へと案内される。
そこでクラノと向き合うように座り、軽く雑談をすると、不思議と気持ちが軽くなった。
「……ふふ、クラノといるとちょっと不思議な感じ」
私は、思ったことをつい口走ってしまうと、目の前のクラノは目をまんまるにし、「どうしたんだ?」と驚く。
「本当はね、緊張してたの。
だってほら……私《先輩という存在》が怖くて仕方ないから。
でもクラノといると安心できるっていうか……とにかくクラノは、人を明るくさせる才能があると思う」
私の正直な気持ちを伝えると、クラノは顔を真っ赤にし、そっぽ向く。
知ってる、クラノは照れると耳まで真っ赤になるもの。
「あのなぁ……!
お前はほんと、正直過ぎるんだよ……。
ゆうかも、褒め上手すぎ。
その才能よこせ」
「私がこうやって褒めるのは、クラノだけだよ!
ほら、もう早くこっち向いて?」
中々私と目を合わせないクラノの姿を見つめていると、後ろからガラッと引き戸が開き、一人の背の高い青年が現れる。
クラノとは違って、恐らく先輩と思われる存在に、心臓がバクバクと強く高鳴っている。
恐る恐る、先輩の姿を確認する。
私たちの学校の学年はネクタイの色で分かるようになっていて、私たち1年生は赤、2年生は緑、3年生は青。
青いネクタイをしているから、3年生であるのは確かだった。
「あっ、シオン先輩!
お疲れ様です!」
「うん、お疲れ様。
クラノくんは今日も元気いっぱいだね」
「はい!
あ、今日は幼馴染みのゆうかを連れてきたんです。
まだ部活決めてないらしくって、入部するとは言ってくれたんですけど、やっぱり一度見学してみないとって」
「ふふ、そういうことならいつでも大歓迎だよ。
ゆうかちゃんでいいかな……?
僕は珠木汐恩(たまき しおん)。
一応、文芸部の部長をしているよ」
よろしくね、とタマキ先輩は微笑む。
物腰の柔らかそうな部長さんだ、と思いつつも、まだ私には大罪の恐怖が取り巻いている。
私にとって《先輩という存在》は、蛇なのだ。
もしくは、獲物を狙う狼、獣。
背筋が伸びるし、少し肩が震える。
「よろしくお願いします……」と絞り出すように呟くと、タマキ先輩は私に気を遣って「緊張しなくてもいいよ」と呟く。
そこで私は、初めてタマキ先輩と目が合った。
昨日はベッドに潜り、"私が書き物だなんてできるのかな""人間関係で悩むことになったらどうしよう"だとか、思春期特有の悩みで頭がパンクしそうだったのだ。
それ故にあまり寝付けず、クラノに授業中何度か起こされて、ようやく今の時間帯である放課後になった。
……どうして私がこんなにも心配性なのかと言うと、それは本当に話せば長くなること。
とても鋭く棘のある茨の道を乗り越え、大罪へと巡りついた、そこから私の性格は切り離されたように変わってしまった。
だからこそ、そう言ってはぐらかすことによって私は、こんな私のことを正当化しようとしているのだ。
私の大罪のことは、すぐ側にいるクラノも知っていて、誰にも言いふらさないし、気を遣ってまでいてくれる。
そんなクラノの"文芸部への入部"の誘いだなんて、無下にはできないどころか、断ったらどうなるかなんて後先のことも考えてしまう。
図書室は、まだ文芸部のメンバーが揃っていないのか、滝を打ったように静かだった。
クラノに手を引かれ、私は図書室のカウンターの前にある机へと案内される。
そこでクラノと向き合うように座り、軽く雑談をすると、不思議と気持ちが軽くなった。
「……ふふ、クラノといるとちょっと不思議な感じ」
私は、思ったことをつい口走ってしまうと、目の前のクラノは目をまんまるにし、「どうしたんだ?」と驚く。
「本当はね、緊張してたの。
だってほら……私《先輩という存在》が怖くて仕方ないから。
でもクラノといると安心できるっていうか……とにかくクラノは、人を明るくさせる才能があると思う」
私の正直な気持ちを伝えると、クラノは顔を真っ赤にし、そっぽ向く。
知ってる、クラノは照れると耳まで真っ赤になるもの。
「あのなぁ……!
お前はほんと、正直過ぎるんだよ……。
ゆうかも、褒め上手すぎ。
その才能よこせ」
「私がこうやって褒めるのは、クラノだけだよ!
ほら、もう早くこっち向いて?」
中々私と目を合わせないクラノの姿を見つめていると、後ろからガラッと引き戸が開き、一人の背の高い青年が現れる。
クラノとは違って、恐らく先輩と思われる存在に、心臓がバクバクと強く高鳴っている。
恐る恐る、先輩の姿を確認する。
私たちの学校の学年はネクタイの色で分かるようになっていて、私たち1年生は赤、2年生は緑、3年生は青。
青いネクタイをしているから、3年生であるのは確かだった。
「あっ、シオン先輩!
お疲れ様です!」
「うん、お疲れ様。
クラノくんは今日も元気いっぱいだね」
「はい!
あ、今日は幼馴染みのゆうかを連れてきたんです。
まだ部活決めてないらしくって、入部するとは言ってくれたんですけど、やっぱり一度見学してみないとって」
「ふふ、そういうことならいつでも大歓迎だよ。
ゆうかちゃんでいいかな……?
僕は珠木汐恩(たまき しおん)。
一応、文芸部の部長をしているよ」
よろしくね、とタマキ先輩は微笑む。
物腰の柔らかそうな部長さんだ、と思いつつも、まだ私には大罪の恐怖が取り巻いている。
私にとって《先輩という存在》は、蛇なのだ。
もしくは、獲物を狙う狼、獣。
背筋が伸びるし、少し肩が震える。
「よろしくお願いします……」と絞り出すように呟くと、タマキ先輩は私に気を遣って「緊張しなくてもいいよ」と呟く。
そこで私は、初めてタマキ先輩と目が合った。