ゆうかユスリカ
……目は口ほどに物を言うらしいし、私は誰かと目を合わせる度にびくびくして、足元がぐらつくような感覚に陥る。


けれどタマキ先輩の瞳は、星のように生への輝きを放っていて……とても綺麗だった。


瞳と言えば、クラノもタマキ先輩のように、まるで太陽のような煌めきを放っている。


ちょっぴりギザだけど、私がクラノにそう伝えたら、彼は「ゆうかの瞳も、月のように静かで綺麗」って言ってくれたっけ。


遠回しに「目が死んでる」ってことを伝えたかったんだろうけど、私がもしタマキ先輩の瞳を現すとしたら、……《釘付け》。


もしくは、《目を奪われる》。


「僕の顔に何かついてるかな?」


「……え!?
いや、その……初対面で言うのもなんですけど、タマキ先輩の瞳が綺麗だなって思って」


「あははっ。
さっき目薬を差したからかな?
誰かに瞳が綺麗って言われたのは初めてだよ」


タマキ先輩の顔をぼーっと直視してしまって、思わずとっさに《瞳が綺麗》なんて言ってしまったけど、こんなにも磁石のように引き付けられるのは生まれてから1度も無い。


それはクラノも感じていたのか、「実は俺も、ゆうかと同じことを考えてた」と呟く。


「2人して褒めてくれるなんて……後で鏡でも見てみようかな。
さて、文芸部の説明をまずしようかな。
クラノも、入ったばかりだし活動内容もあまりよく分からないでしょ?」


「一応顧問の先生に聞いたんですけど、説明ベタなのか全く頭に入ってこなかったスよ~」


「あの面倒臭がりの紀伊(きい)先生だからしょうがないね。
ゆうかちゃんも、よく聞いてね」


「はい!よろしくお願いします!」


タマキ先輩は机に、文庫本と思わしき一冊の本を置く。


題名は《ユスリカ》、表紙にはタマキ先輩の名前だけではなく、顧問のキイ先生や全く知らない人の名前が二人ほど載っている。


タマキ先輩が言うには、既にその二人は高校の方の文芸部に所属したとのことだった。


私の中学校はエスカレーター式で、部活は高校生と合同でする、と思っていたがそうでは無いらしい。


「僕たちの部は、年に一回こうして文庫本を出版するんだ。
……出版と言っても、本屋さんで売り出されたりはせずに、秋にある文化祭で販売して、それで利益を得ているんだよ」


「表紙に名前が4つあるから、部員全員で一冊の本を執筆するってことになるんですね」


「そうだね。
登場人物、具体的なストーリー、プロット……全員で物語を執筆するからこそ、とても奥が深くて味のある作品になるんだ。
時には出版社が目を付けて、書籍化して実際にメディアミックスされた代もあったんだよ。
でもだからこそ、なのかな……」


「タマキ先輩……?」


「入部希望者が少なくてね。
"僕なんかが書けっこない"っていう意見もあって、年々入部希望者が減ってきていて。
ついに僕が2年生のときは……1年生で入部希望者いなかったし、3年生は全員幽霊部員になった」




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