ゆうかユスリカ
小学校の教室という、小さな箱で繰り広げられる惨劇。


泣き叫ぶゆうかの姿を思い出すだけで胸が痛み、醜いいじめっ子の姿を思い出すだけで吐き気を催す。


"死ねよ"
"キモい"
"学校来んな"


ゆうかに浴びせれる暴言の数々は、まるで俺にも語りかけられているようで、気味が悪い。


いじめを見ていることしかできなかった俺は、懺悔をするようにゆうかの隣にいることで、赦されようとしている。


そんな俺も、きっと醜いいじめっ子で、意地の悪い劣等種なのだろう。


「……実はね、私も家で小説を書くことにしたんだよ!
ケータイ小説なんだけどね、やっぱりイチから考えるのって難しいなぁ」


暗い雰囲気を吹き飛ばすように、ゆうかが作り笑いをして、俺に話題を振る。


「へー!いいじゃん!
ジャンルは?」


「最初は無難に、恋愛系がいいかなって。
あー……でも、恋とかしたことないから、友情系なんかもいいかもしれない」


「……そっか。
初恋がまだって珍しいな」


「えー、私たちまだ中学1年生だよ?
なら、クラノは今誰かに恋してるの?」


「ンな訳ねぇだろ!
今そんな余裕はないっつーの。
女友達はゆうかで十分だしな」


"恋とかしたことがないゆうか"に合わせるように、俺も"今誰にも恋をしていないクラノ"を演じる。


そうすることで、俺たちは今まで通り仲良しな関係でいれるんだけど、ふとした時にこの関係が壊れてしまいそうで怖いんだ。


俺なんか、絶対少女漫画で言う《ヒロインの幼馴染みポジション》。


友達以上恋人未満ってところか?


……まあ、実際にその通りで、幼馴染みなんだけどな。


正直言って、ゆうかが知らないだけで結構な人に噂されてるんだよ。


"名西侑香と倉野翔は絶対に付き合ってる!"ってさ、ミーハーな奴らが騒ぎ立てるものだから、ちょっと困ってる。


でも内心、その噂通りになればいいのにって思ったり……俺って本当に不器用だな。


「ゆうか」


「ん?
どうしたの、クラノ」


「その……小説完成したら、俺読んでみたい。
昔やってたじゃん?
俺が書いた小説をゆうかに読んで貰うの。
あれ、またやろうぜ」


「もちろんだよ!
あ、でも文章が拙いとか誤字脱字とか心配だから、クラノが書くスパンよりも長くなるよ?」


「ばーか。
いくらでも待つに決まってんだろ?
楽しみにしてるからさ」


でもさ、俺何となくお前の気持ちに気づいている部分があるんだ。


ゆうかは"恋とかしたことない"って言うけど、実際は"恋と断定できない"だけで、惹かれている人物がいることは分かる。


皮肉にも、俺が《先輩嫌い》のゆうかの為に勧めた文芸部で、恋が芽生えるなんてな。





< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop