縁の下の恋


「一理さんっ!身の回りの物…何にも持って行かないの?」



「ええっ!あちらで全部自分で…ただお母様、この古いたてピアノだけは、運んで貰えると嬉しいんですが、……」



「これって、お祖父さまが貴女が3才のお誕生日に買って頂いた物だものね。貴女が大切にしてくれてて、お祖父さまも喜んでいらっしゃるわ!引越しの日に必ずね!判ったわよ。」



「お母様…わがままを許してくださって、有難うございます。またご心配掛けるかもしれませんけど……」


普段は、笑顔しか見せない深雪ではあったが、改まって一理に挨拶をされ、涙ぐんでしまった。



「一人で悩んだりしないで、何時でも此所へいらっしゃいね?待ってるわ!…いえっ、私勝手にマンション行くかも、だって、合鍵作って貰っちゃったの!」



「お母様ったら、もうっ……」



一日も早く一人暮らしに慣れたい一理は、あっという間に引越しを済ませてしまい大学生活とも何の後悔も未練もない一理の新しい人生の始まりを迎えることとなった。
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