縁の下の恋
その時、リョウが訊き掛けたことが何だったのかは、一理にはまだ判っていなかった。
一理が肩から降ろしたリュックの上から本が覗いて見えた。
リョウは、何気に引き抜いて見た。
【照明工学…】
(あの子は……)
本を持ったまま考え込んでいると、コーヒーを持って一理が戻ってきた。
「あっ…」
「ごっ、ごめん!ちよっと見えてしまって、勝手に見たりして。これって、君が勉強してるもの?」
「はいっ、(本をリョウから返してもらいリュックにしまいながら)」
俯きながら去ろうと…「じゃあ私は、準備ありますので…今日は宜しくお願いします。失礼します!」
「今日も…テストお願いするかも…こっちこそ、宜しくね。」
一理は、顔が少々恥ずかしさから赤らんでいるのを見られるのが嫌でその場を慌てて走り去った。
本当は、まだ何かを話していたかった。
どんな人なのかをもっと知りたいと思っていた。
けれど、ただこんなにも早くにリョウに巡り逢えただけで今は充分だった。