縁の下の恋


その日の帰りは、いつものようには、自転車には乗らずに、暫く自転車を引きトボトボ歩いて一理は帰っていた。



誰かが走って近寄って来た。



「一理っ!どした?今日は、大変だったな!落ち込んでいるとか?……」


渡辺だった。



振り向くことも出来ずにいた。


「いえっ、とにかく…凄いなぁ、大変な仕事が沢山あって……でも、皆さん一人一人が頑張っておられて、チームワーク良くて、私なんか入る隙もなくて…」



「お前さぁ、入ったばかりで、出来る訳ないだろ?完璧に考え過ぎるなよ!誰も入ったばかりのお前に期待してないからさ!もし、仮にお前が何でもテキパキやれたとしたら、俺らの立場ないし、だろっ?」


最もだと思い一理は頷いた。



「これからは、どんどんステージをこなして、色んな経験をしていけば、ひとりでに体が動くようになるってもんさ!まぁあんまり深刻に悩まずに……って言っても、なんかお前悩んだりしそーだな!っな時は、源さんとこ、付き合ってやっから、今日はゆっくり寝ろって…」



「はいっ、判りました!明日のスタッフ会議宜しくお願いします!じゃあ失礼します。有難うございました!」


一人自転車で走って行った。



「ちぇっ!ホントに男みたいな奴だよなぁ、しかし、どんな育ちかたしたんだか…」


訳の分からない疲れがどっと来た渡辺であった。
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