王子様に恋をした
案の定、一眞さんが私の側に来て囁く

「お前知ってたのかよ!先輩には婚約者いるって事」

知ってるわけじゃん!!

「その様子だと知らなかったみたいだな?俺、先輩に文句言ってやろうか?亜衣との事は遊びだったんですか?って!」

止めてよ!そんな事聞かないで!

「遊び?何の話なんだ?俺は澤村とは付き合ってないぞ?確かに2人で飯食ったりしたけど、俺と2人の時話す事といえば、仕事の話や相談事だけだったよな?」

て、言われるのが分かっていたから。

そう…私は竜二さんと会っても、仕事の話ばっかりしていたし、竜二さんなんて呼べなくて、【大野先輩】と呼んでいたんだ。

どんどん顔色が悪くなっていったであろう私の顔を覗き込めば

「亜衣!おい亜衣!!」

私の肩を掴んで揺する一眞さんの手を振り払い、私はまた一気にグラスワインを飲み干した。

遠くで竜二さんの退職と栄転を喜ぶ声や嘆く声が聞こえる。

私は会場に居られなくなり、荷物を持つと、ふらつく足で会場から出ていった。

一眞さんが呼んでいる声が聞こえるが、私は無視して呟く

『彼から捨てられた』
『彼に婚約者がいた』
『あんなに幸せなXmasを過ごしたのに、どうして?』

私の呟きにいいねがどんどん付いていくのを見て、

『彼がいないなら、私は生きてる意味はないね』
『消えたい』
『誰からも見えないくらい小さくなりたい』
『酷いよ!!私は大好きなのに』

とどんどん過激な呟きを重ねていき、スマホばかりを見ていた為、目の前の横断歩道が点滅していた事に気づかなかった。

交差点を右折してきた車が、パーーーーーーっと大きなクラクションを鳴らした事で、私はハッと顔をあげた。

目の前の信号は赤信号。なのに私はまだ歩道の上にいた。

目の前に迫るヘッドライトの眩しさに目が眩み体が竦んで動けない!!

車は大きなカーブを描き私を避けようとするが、間に合わず私の体を掠めて近くの電柱に突っ込んで行くのを、空中へ飛ばされながらボーっと見ていた。

やがて私の体は、道路に叩きつけられ、激しい衝撃音と強烈な痛みを伴った…ハズだ。

何故それ等が伴わなかったのか?
その時私は既に意識が無かったのだろう。

竜二さん サヨナラ ご婚約者さんとお幸せに

空中で思った最後の言葉だった。
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