戀のウタ
「せ、先輩!うちに用があるって!」

「ああ大丈夫、ちょっと寄り道する時間はあるから。で、お勧めは?」

「え、あ…駅前のアーケードの入り口にある『Limelight』ってお店のエクレアが…」

「へーそんな店出来たんだ。ていうか未だにエクレア好きなんだな」


 出しっぱなしのメモ帳とペンを取り落とさないようにしていると白河先輩はそう言って笑った。

 そんな事まで覚えてくれてるんだと思うとなんだか嬉しくなる。
 緊張に紛れてじわじわと安堵が広がり心地よかった。

 五分ほど走って少し渋滞し始めた駅前に着くと裏道に1本入ってコインパーキングに車を停めた。

 白河先輩はポケットに財布だけ突っ込むと「ちょっと待ってろ」と言い残してアーケードの中へ消えて行く。


 白河先輩の言いつけ通りに大人しく助手席で待っていると暫くして白いケーキケースと小袋を持った先輩が帰ってきた。

 先輩が運転席に滑り込むと柑橘系の香りに混じって甘いバニラビーンズの香りがふわりと舞う。

 いい匂いだなぁなんて思っていると白河先輩は持っていたケーキケースをアタシの膝にちょこんと置いて小さい紙袋をアタシに手渡した。
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