戀のウタ
「そっちの箱は松永の家の土産にするから持っててくれるか?で、こっちが松永の」
 
「あ、はい。…でもこっちのはちゃんと払いますから」

「そのくらい奢られろよー。俺は社会人なんだぞ?」


 窘める言葉の響きがあの時のままだなぁ。
 そんな風に思っていると大きな手がアタシの頭の上に乗った。
 大きな手は頭の上でポンポンと上下する。
 辛い稽古や試合に負けた時によくしてくれた撫で方だ。

 懐かしくて嬉しいけど…ちょっと子供扱いし過ぎな気もする。
 だけど不思議と心地いい。

 
「…白河先輩、子供扱いし過ぎ」

「俺からしたら高2なんてまだまだガキンチョだよ」

「そんなことありませんー!立派に女です!」

「そうか、そんなに言うなら俺の彼女候補に入れるぞ」


 子供扱いする白河先輩を困らせようと唇を尖らせて言ってみると予想斜め上の答えが返ってきた。

 「え?」と聞き返すよりも先に静かで硬い空気が車の中を漂う。

 隣に座る白河先輩を見やる。
 先輩の視線はアタシを捉え、その真摯な眼差しにアタシは息を飲んだ。


< 108 / 170 >

この作品をシェア

pagetop