戀のウタ
「松永…」

「白河、先輩…」

 
 ぐっと近寄った先輩の顔に堪らず目を閉じる。

 目を閉じた先の気配が更に近付いて――…


 むに。


 頬にあった触れる感覚がつままれる感覚に変わる。
 驚いて目を開ければ目の前には今にも噴き出しそうな白河先輩の顔。


「あははは、キスでもされると思ったか?」

「ちょ…先輩!」

「ごめんごめん、悪さが過ぎた」


 ひとしきり笑うと白河先輩はつまんでいた手を離し両手を合わせて謝る。
 確かにキス…、されるかと思ったけど。

 だってあんな雰囲気になったら考えちゃうじゃん。

 アタシが不服そうな顔をしているのを見て白河先輩は更に「ごめん」と謝る。
 そしてさっきみたいにアタシの頭を撫でてこう続けた。


「でもさ、久々に会った松永が暗い顔してたから。気分転換させてやりたいなって思って」

「…そんなヘコんだ顔してました?」

「ああ、眉間にシワよってた」


 その言葉にアタシはやっぱり、と思う。
 だって今日1日のことを…恭介とのことを考えたら。
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