戀のウタ
 結局、なんとなく普通のクラスメイトみたいな距離を取って過ごすことにした。
 それがちゃんと『普通のクラスメイト』って距離だったかはよく分からない。

 だってそういう『距離』なんてもの、いつも感じながら過ごしているわけじゃないから。
 だから俺の想像する『普通のクラスメイト』な距離で過ごしたけど…。


 チャイムが鳴ると同時に教室を足早に去るミチルの背中を見送ってたら胸の中がチクチクして。

 遠ざかる小さな背中を見ていると、つい先日まで手を伸ばせば触れられる距離がどれだけかけがえのないものだったかを痛感した。


 ああ、そんな風に感じてたんなら普通のクラスメイトじゃないんだろうな。
 今更だけど…それに気付いた。

 馬鹿だなぁ、1日間違って過ごしたじゃん。


 間違いだらけの1日に溜息を吐いていると木村に「ボーッとすんな」と小突かれた。
 小突かれた感覚でやっと現実に戻った俺は拾ってもらった箒を受け取ろうと手を伸ばす。

 だけど木村は渡してくれなかった。


「今日は掃除代わってやっから」

「え?なんで?」

「こないだバイトで代わってもらったろ?あれの埋め合わせ」

「ああ、あの時の…別にいいけどそんな気ぃ使わ――あ痛!!」


 木村の申し出に俺は辞退の言葉を口にしようとしたところで申し出た本人に頭を叩かれた。

 お前、優しいのか優しくないのかどっちだよ、というツッコミが喉まで出かけたところで木村が眉を吊り上げ俺を叱る。


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