戀のウタ
「お前、松永と喧嘩してんならとっとと追っかけて謝ってこい」

「はぁ?別に喧嘩してるわけじゃ…」

「お前ら見てると超ウゼェ。ワケアリ空気垂れ流し過ぎなんだよ」

「…ワケアリってお前なぁ」


 なんとも理不尽な抗議の言葉に俺は溜息を吐いた。

 喧嘩ってわけでないし俺とミチルの問題だ。
 …ワケアリなのは認めるけど。

 だけど木村に迷惑をかけた覚えは無い。
 その思いが顔に出ていたようでそれに気付いた木村は更に眉を吊り上げて怒った。


「兎に角、今日のお前らの空気、違和感ありまくりでこっちも居心地悪い。とっととどうにかして来い!」

「どうにか、って…」
 「今からなら走って追っかけりゃ追いつくだろ?だから掃除代わってやるって言ってんだよ」 


 木村の言葉に気持ちが揺れる。

 話したところでどうせ変わらないだろうという諦めとちゃんと話せばいつも通りの関係に戻れるんじゃないかという淡い希望が胸の中の天秤にかけられぐらぐらと揺れた。


 1歩踏み出すのが怖い。
 ミチルに拒絶されるのが怖い。

 だけど今のまま少しずつ、距離を取られて離れ離れになってしまう方が怖かった。

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