戀のウタ
 胸にひしめく恐怖と向き合い考えてみれば1番怖いのは今の状態だった。
 これ以上、今日みたいな間違いを犯したくない。

 その思いが1歩踏み出させた。


「…じゃあ代わってもらっていいか?」

「水くせぇな、とっと行けよ。お前すぐこけるんだから早く行かねーと追いつけねぇぞ」


 俺の言葉に木村は笑いながら要らない一言と一緒に送り出す。
 なんだか心の中が少しだけ軽くなった気がした。


「うるせーよ!じゃああと任せた!」

「おうよ、こけんじゃねーぞ!」

「お前は俺のオカンか!」 


 軽くなった気持ちと一緒に軽口を叩いて俺は踵を返し急いで教室へと戻る。

 教室に戻る前につまづいたり人にぶつかりそうになったりと相変わらずだけど何故か気にならなかった。

 教室に入ってすぐに自分のバッグを鷲掴みにするとダッシュで昇降口に向かう。
 靴を履き替えまだ下校ピークの人ごみに紛れると校門を目指した。


 たぶん、今日のミチルの事を考えたら寄り道はしないと思う。
 機嫌の悪い日にはとっとと家に帰って風呂に入って気分転換する。
 そのパターンは変わってないと思う。

 それなら通学路を行けばいい。
 ミチルが教室を出てから10分も経っていないから走れば道中で捕まえれるはずだ。

< 117 / 170 >

この作品をシェア

pagetop