戀のウタ
 あのタイミングで責任者である千鶴さんが黙ったという事は少なくともプロジェクトとして把握してることでも意向があったことでも無いと思う。

 配属の件は兎も角、ただ純粋に偶然で白河先輩が現れた?
 地元に転属願を出すというのはありえる話だ。
 それが叶っただけかもしれない。

 それにミチルから聞いてる限りではミチルを大切にしてくれていた。
 ひょっとしたら俺には出来ない形で守ってくれるかもしれない。

 そんな都合の良い憶測、いや希望が頭をもたげる。


 ――よく考えろ、今の俺に何が出来る?

 自分の考え出した甘い憶測を振り払い考え直す。

 今すぐにミチルを連れ戻すにも相手は車、追いつけない。
 カイロスの機能を開放すれば追いつくことも可能かもしれないが今はセーフティがかかっているので無理だ。

 …悔しいけど手が出せない。

 それにさっきのプログラムの件もある。
 まずは状況を把握することが先のはずだ。
 ミチルの事は心配だけど…こうするより他ない。

 俺は覚悟を決め、揺らぐ気持ちをしっかりと御すると携帯電話をしっかりと握り直した。


「…今からそちらに行きます。ただしこれから言うナンバーの車のトレースが条件です」

「そんな、あたなにそういう権限は――」

「警察関係者がミチルに接触してきてるんです」 
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