戀のウタ
「どうしたの?どっか泊りに行くの?」

「ああ辞令が下りてな。明日から地元に戻る」

「はぁ?何それ?!」

「だから出来たら保存の効かない食材は貰ってくれないか?」


 いきなり切り出された帰郷に千夏は釈然としない思いをぶつけるが白河は黙ってそれを聞き荷物をまとめる。

 黙々と荷造りを進める白河の背中を見て千夏は大きく溜息を吐いてキッチンからリビングへと向かった。


「ねぇシュウ、急な話過ぎない?何があったの?」

「だから辞令が下りたって」

「それいつまでの話?転属でしょ?この部屋どうすんの?」

「向こうの人員に穴が開いたからその埋め合わせに短期だよ。2県先だから休みに車でも帰って来れるから」

「シュウ」


 矢継ぎ早に繰り出される質問をいなしながら白河は作業の手を緩めることなく続ける。

 だが殊更固い声色で名前を呼ばれたことでその手はピタリと止まった。


「ねぇ付き合う時に約束したよね?お互い隠し事しないって」

「隠し事なんてしてねぇよ」

「じゃあ守秘義務?」


 千夏のその一言で2人の間に沈黙が落ちる。
 静かな中にキッチンでコトコトと煮える音が小さく響いた。


「…そりゃあ警察官だもん、仕事のことは喋れないっていうのは分かってる。だけど今日のシュウは変だもの」


 白河の沈黙を肯定と取った千夏が溜息交じりに呟く。
 警察官の恋人である以上、その事は理解している。

 だがそれだけでなく白河の抱えている何かに気付いて千夏は「いつもと違う」と評した。
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