戀のウタ
 彼女の言葉に白河はある種の安堵と諦めを感じた。

 付き合う前から思っていたがこの人はとても勘が鋭い。
 その事に何度となく助けられたが今回ばかりは少し辛かった。


「…お父さんのこと、絡んでる?」

「…すまん、察してくれ」


 まんまと言い当てられた白河は肯定も出来ずただ言葉を濁した。
 言った後で濁してはいるが肯定の言葉だなと思う。

 父の死に対しての疑問は千夏にしか話していない。
 自分の私怨に近いものだから大事な人を巻き込みたくは無かった。

 だが彼女の対してだけは出来なかった。
 恋人になった時の約束もあるがそれ以上に彼女自身が自然とそれに気付いてしまったから。


「チカ、今回ばかりは…」

「うん、分かってる」


 力なく首を垂れる白河を千夏はゆっくりと抱きしめる。
 千夏の暖かい体温と息遣いが白河の体に降り注いだ。


「シュウは一度決めたら梃子でも動かせないの、分かってる」

「すまん…」

「だけどね、私はシュウのこと信じてるから。大丈夫」


 その言葉に張りつめていた気持ちがゆるりと溶け落ちた。 

 ドアを開けるまでは、千夏に会うまではあれほど強く私情を捨てると誓っていたのにあっさりとその覚悟が消えていく。

 そんな自分の覚悟の弱さに腹が立ったが同時に不思議な穏やかさもあった。
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