戀のウタ
「兎に角、任せるしかねーと思う。お前が2人をどうにかしてやりたいって気持ちもわかるけど…。恭介だってずっと今までのままって訳にもいかねーだろうし、それに…」

「それに?」


 山内の言いかけた言葉を里奈が拾う。

 彼も思わず言いかけた言葉で拾われるとは思っていなかったので思わず黙り込んだ。


 暫しの沈黙がオレンジ色に満たされた教室に横たわる。

 今度は山内が迷いを含んだ声で言葉を紡いだ。


「さっきも言ったけどアイツ、小さい頃結構いじめられてて…ちょくちょく俺んち来て泣いてたんだよ」

「ひょっとしてミチルの前で泣くと…」

「ん、松永が仕返しに行くだろ?年上でも構わず向かって行くから怪我もするし泣くから。だから…まぁ割合で言ったら10回中1回ぐらいだったかなぁ、そんぐらいの頻度で俺んち来て泣いてたんだよ」


 確かに今のミチルと恭介の言動を見ていれば昔からそうだったのだろう。
 その当時を知らない里奈にも2人の過去は想像が出来る。

 自分の知らない彼らに思いを馳せる彼女を見ながら山内は読んでいた漫画をパタンと閉じて机に置いた。

 そして彼は彼女の想像を言葉で補い補完する。


「今でこそアイツも明るいけどその頃はホント消極的で静かにじっとしてる奴だったから…正直言って俺、恭介のこと嫌いだったんだよな」

「そうなの?今はめっちゃ仲いいのに?」


 意外という表情を顔いっぱいに表現する里奈に山内は「まぁ今はな」と苦笑する。
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