戀のウタ
「で、家が近所でオカン同士仲良かったからしぶしぶ遊んでて。でもしゃべんねーし面白くなくてさ」

「山内は典型的な運動大好きっ子だもんね」

「そうそう、でも恭介が来た日はたまたま雨で外に出れなくてすること無くて。兄貴の部屋で漫画読んでたんだ」


 山内はそこまで言うと閉じていた漫画を再び手に取った。

 そして開いてパラパラと捲る。

 あの時と変わらない内容と絵柄が幼い頃の記憶を呼び覚ます触媒になる。


「そん時はまだ単行本しか出てなかったけど2人でるろ剣読んでて…そしたら恭介が急に「強くなってみんなを守りたい」って言いだしてさ」

「急だね」

「確か小学校に上がったばっかりぐらいで幕末漫画だし、俺も漫画の内容よりも剣心カッケー!ぐらいにしか思ってなかったから」

「ヒーローモノに憧れたり…って年頃だろうしね」

「そ、だから俺もその程度のもんだと思ってたんだけど違ってた」


 そう言って山内はほんの少し口角を上げて薄く笑った。

 その後の恭介の変化には確かな意思があった。
相変わらずドジではあったけれども『変わろう』とする意思と覚悟は幼い山内からも見て取れた。

 いつも消極的で幼馴染の後ろに隠れるような幼い男の子が今は明るく誰にでも優しく接せれる少年になっている。

 その成長を間近で見てきた山内は心地よかった。
< 145 / 170 >

この作品をシェア

pagetop