戀のウタ
「なんか、また最近変わろうとしてるような気がするんだ、恭介のヤツ」


 ページを捲る手を止めると彼はそう言う。
 先程言いよどんだ言葉の続きがこの言葉なのだと里奈は確信した。

 そして山内が恭介に漫画を借りたのはその当時と今の状況が重なって見えたから。
 だからまた読みたくなったのだろうと推測する。

 だが1つだけ気になる点が出てきた。


「ねぇ山内、恭介君に借りなくてもお兄さんに借りれば…」

「ああ、里奈は知らなかったっけ?うち、離婚しててオカンと2人暮らしだって」


 「ホントは相葉なんだよ」と。
 さらりと、まるで昨日のテレビ番組の話題を口にするように山内は言う。

 あまりにもあっけらかんと言い放つ彼に里奈は思わず面喰った。
 そして申し訳なさそうに口をつぐむ。

 そう言えばさっきの会話で小さい頃は恭介の家の近所だったと言っていた。
 だが恭介と山内の帰り道は全く反対方向だったことを思い出す。

 軽はずみに言うんじゃなかったと里奈は後悔し視線を2人の間にある机の上に落とした。
 見るからにしょげた様子の彼女を見て山内は気にするなと言わんばかりに笑って見せる。


「兄貴は親父に付いて行って俺はオカンに引き取られた。まぁその時はまだ小2だし女手の方がいい頃だったしな」

「…ごめん」

「謝んなくていーって。それに離婚してても結構仲良くやってんだぜ?年に2・3回は4人揃って飯食いに行ったりしてるし」

「そう、なんだ」

「ま、『家族の在り方』っていうの…色々あってもいいんじゃねーかな?」


 確かに家族の在り方なんて家庭毎に違う。

 だが両親が共にいるのが当たり前の里奈にとって彼の言う『家族の在り方』を正しく理解出来ているか自信は無かった。
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