戀のウタ
 逃れられない事実を突き付けられ千鶴は唇を噛んだ。
 出来る限り振り返りたくなかった事実を思い出しあの時の痛みが蘇る。

 氷川がどのようにして経歴を調べたかは千鶴には分からない。
 だが彼の家柄を考えればこのぐらいの情報を掴んでくることは不思議なことではなかった。


 塞がりかけた傷をもう1度広げられるような辛さに千鶴の表情が歪む。
 痛みを堪えるような彼女の表情を見て氷川は顎に当てた手をそのまま首筋へとやった。


「お前が求めてるのは研究の成功か?それとも死んだ男に似たガキへの無駄な恋慕か?」

「お願いだから、やめて…」

「認めるのが怖いだけだろう?」


 聞きたくないと頭を振る千鶴に氷川は執拗に逃げ道を塞いでいく。

 まるであと一撃で仕留めれる獲物をなぶる様に追い回す肉食獣のような残忍だ。

 その残忍性は獲物が――千鶴が怖れを感じれば感じる程に増していき、陰惨なものへと変わっていく。
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