戀のウタ
　恭介の軽口に笑っていると恭介も安心したようで同じように笑う。

　こうやって笑い合えばいつもの距離に戻る。
　さっきまでの気恥ずかしさは朝一番の風と共にふわりとどこかに吹き抜けていった。


「あーもう、くだんないことばっかり言ってないで…あ、後ろ寝グセ！」

「マジで？直すからちょっと待って」


　そう言って恭介は通学鞄からワックスを取り出すとキャップを捻る。
　そういえば前にもこんな寝グセが付いてることがあって…


「うわっとっと！」


　勢い良く回したワックスが恭介の手から滑り落ちる。
　円柱型のプラスチックのケースは坂道を転がりアタシ達が追いかけようとした時にはもう10数メートル先を転がっていた。

　そして坂道で加速したワックスは坂の終着地点であるT字路のところでタイミングよく来たトラックに轢かれる。

　轢かれると同時に遠巻きにペキョッと情けない破壊音が聞こえてきた。


「おとつい買ったばっかなのに！」

「これでワックス紛失回数18個目ね」

「今のは紛失じゃない…破損だからカウントするな」

「破損は３個目だけどね」


　がっくりと肩を落とし項垂れる恭介を横目で見ながらアタシは「ご愁傷様」と恭介の肩を叩いた。
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