戀のウタ
「ホントはこの間…眼鏡の修理に行った日に言おうと思ったんだ」

「…あの日に?」

「言ったら巻き込むかもしれないけど…知って距離を置いてくれれば今日みたいなことにならないかもしれない、って思ったから」

 
 そう言って恭介は自転車越しに困り顔で笑って見せた。


「だけど…心のどっかで、知られて安心してる俺がいる。ごめんな」

「いいよ別に。恭介だってずっと…生まれてからずっとそんな秘密かかえてんのしんどかったでしょ。…今まで気付けなくてごめん」


 それからアタシの家に着くまで恭介とポツリポツリと話しながら帰った。

 今日あったことではなく今までの思い出話。

 それこそ幼稚園の頃のことから昨日のことまで。


 そんな話しか出来ない気分だったから恭介はアタシの話に付き合ってくれた。
 本当は恭介の方が聞いて貰いたい話が沢山あっただろうに。


 アタシは…弱くて自分の話ばかりして2人きりの帰り道をそんな話で誤魔化した。
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