戀のウタ
「ねぇ結局のトコどーなの恭介くんとは?」


 廊下の水溜りを拭き終わり流し台で雑巾を洗っているとふいに里奈が口を開く。
 「何を」という主語の抜けた問いに私はぼんやりと問い返す。


「どうって何が?」

「相思相愛じゃん、告んないの?てゆーかひょっとしてもう付き合ってる?」

「…ば、ばっかじゃないの!恭介とは幼馴染でなんとも…」

「ミチルさっきはありが…」


 アタシの言いかけた言葉の途中で後ろから声が重なる。

 言いかけた言葉を止めようとしたが止まるでも戻すわけにもいかず…恭介の言葉を遮ってしまった。

 恐る恐る振り返ってみれば途方に暮れた恭介の顔。
 眼鏡の奥にある瞳が所在無さげで、場の空気に耐えれなくなって視線を足元に落とした。


「恭介、こっち!!」

「ちょっとミチル?!」

「ごめん後任せる!」


 この世の終わりぐらいにへこんだ顔の恭介にアタシの心の中に罪悪感が広がる。

 このままにしてはいけないという恭介との長年の付き合いから里奈の制止を振り切って恭介の腕を掴んで走り出していた。
< 6 / 170 >

この作品をシェア

pagetop