戀のウタ
「なあに?おかわり?」

「じゃなくて、20年前の御簗山の隕石って覚えてる?」

「どうしたの急に?」


 珍しい事を聞くのねといった風な声にアタシは慌てて「昨日恭介とその話になって」と言い繕った。
 するとお母さんは洗い物の手を止めああ、とあいづちを打って続ける。


「私は元々こっちの生まれじゃないし結婚してここに住み始めたけど新聞に載ってたわよ。ニュースでも特集してたし」

「そう…なんだ」

「確かお父さんと付き合い始めたばかりでねぇ。お父さんが「一緒に見に行こう!」ってデートに誘ってくれたの覚えてるわー」

「み、見れたの?隕石!」

 アタシが身を乗り出して聞き返すとお母さんはアタシがそこまで興味を持つとは思っていなかったようで笑いながら「見れなかったのよ」と答えた。


「ニュースになって3日後ぐらいだったけどもう片付けられててお父さんと一緒にガックリ。帰りに海岸通のイタ飯屋さんでディナーして帰ったわー。まぁいい思い出よね」


 昔を懐かしむような、母親としてでなくほんの少しだけ1人の女性としての顔をみせて言うと途中だった洗い物に戻った。
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