戀のウタ
「あーでもこんなこと言ったらミチルにどつかれそうだなぁ」


 考えたそばから眉を吊り上げて怒るミチルの顔が頭を過ぎる。
 ミチルはいつも怒ってるイメージがある。

 そりゃあ俺がドジで怒らすようなことばっかりしてるからなんだけど。
 でも笑ってる時の表情とか俺のこと心配してる時のミチルはずっと前から好きだ。

 …面と向かって言えないけど。


「あら恭介、ミチルちゃんに怒られるようなことしちゃったの?」

「そんなことだけ良く聞いてるよなお袋は」


 お袋の目敏いツッコミに俺は溜息を付きながら食べかけの朝食に手をつける。

 本当はカイロスエネルギーで動いているから食事は要らないんだけど『精神衛生上』という理由で食べるようにカイロスプロジェクトのお偉いさんから言われている。

 そうでなくてもお袋の飯は美味いから食べるけど。


「何が理由か知らないけどあんたはミチルちゃんがいなきゃ駄目なんだから早く仲直りしなさいよ」


 お袋の一言に飲みかけたカフェオレが気管に入る。
 ゲホゲホ言ってるとお袋はころころと笑ってむせる俺に弁当を渡した。
 
 
「いい子じゃない。母さん、ミチルちゃんなら娘に欲しいわ」

「何言ってんだよまったく…」

「母さん本気なのに。でもちょっと先でも将来はそうなって欲しいわ」


 そう言うとお袋は洗い物を始める。


 ああそうか、お袋は知らないんだ…と思うとすごく申し訳ない気持ちが広がった。
 そして広がったその気持ちのせいでリビングに居辛くなる。


「…ごちそうさま。今日はラボに寄ってから帰るから」

「あらそう、じゃあ夕飯遅めにしておくわ」

「いいよお袋は先に食ってて」


 残ったハムエッグをかけ込みコーンスープで押し流すと俺は弁当を持ってバタバタと家を出た。
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