戀のウタ
「恭介あぶねぇ!」

「…ぅえっ!」



 ぼんやりした意識の端に鋭く自分の名前が聞こえる。
 考え事から意識を逸らそうとした瞬間に視界と脳が揺れた。

 俺は一瞬何が起きたか分からず衝撃に従いそのまま尻餅をつく。
 それに遅れて後ろの方でポーンとボールの弾む音がしてさらにその音に続いて周りから笑い声が聞こえた。


 チカチカする視界の向こうでネット越しに「わりぃ」と手を合わせて頭を下げる山内が見える。


「恭介、ボーっとしすぎ」

「わ、わりぃ」

「まぁボーっとしてなくても恭介なら今のは確実にヘディングしてるけどな」


 同じチームの柳瀬と加藤が笑いながら俺を注意しからかうと周りのクラスメイトももう1度笑い始めた。

 恥ずかしいなぁと思いながら俺はずれた眼鏡を直しバレーボールの当たった頭を掻きながら立ち上がる。

 向こうのコートは前のゲームが終わっていたようでミチルはコートの端で休憩していた。
 どうやら一部始終見ていたようで心配そうな目で俺を見てる。


 また心配させたな…と思い俺は「大丈夫」と小さく唇を動かした。
 どうやら唇の動きを読み取ってくれたらしく少しだけ表情が緩む。

 ああ、安心してくれたんだなーと思うと朝からの憂鬱が少し軽くなった。


 さて、カッコ悪いとこばっかり見せてられないし。次は一本決めるぞ!と思って目の前の相手チームに集中する。
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