戀のウタ

乞うこころあれど繋ぐには難しくて

 まるで海の上に浮かんでいるみたいにゆらゆらと揺れる意識が徐々に輪郭を帯びてくる。

 酷く寝起きの悪い朝のような、すっきりとしない感じにアタシは眉間にしわを寄せて頑張って目を開こうとした。


 うっすらとぼやけて見える天井は見覚えがなくて一瞬どこかという疑問が頭を過る。
 のろのろと起き上がろうとすると隣に気配を感じた。


「よかった、大したことないみたいで」


 ふいに聞こえたよく知った声にアタシは思わず跳ね起きた。

 声の主は恭介。
 ベッドサイドにある丸椅子に腰かけて安堵の溜息を吐き出すと少し笑って見せた。

 その笑顔と恭介の後ろにあるベッドのある空間を覆い込むように広がったアイボリー色のカーテンでここが学校の保健室だと気付く。

 そういえば昨日も同じ状態だったなと思い返した。


「恭介…なんで?」

「俺、保健委員。ミチル、ボールが当たってその拍子に壁にぶつかったの覚えてる?」

「…ん、なんとなく…。金山先生は?」

「1年の保体の授業だって」
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