戀のウタ
 特技研のラボはまるで人と物を納めるだけの飾り気のない箱のようだと思う。

 研究という目的の為だけの施設だから仕方ないと思うけどそれを差し引いてもここは人の居る隙間が無い感じがするからだ。

 例えばちょっと置かれているテーブルや椅子の洒落っ気と個性の無さ、鉢植えの緑の無さとか。


 なんというか「あと1つ何か」という余裕が無いのだ。
 必要なものを最低限に、という無駄を排除して絞り込まれた空間。

 この人の居心地に関して無配慮なラボは『部屋』というより『ものを納める空間』のようで心にゆとりを持たせなくて息苦しい。


 前にミチルに「地下だから窓もなく息苦しいかも」と言ったけどそれだけじゃなかったと今更ながら改めて気付いた。

 場所としての息苦しさに溜息を吐くとそれを追うように今日の保健室での事が頭を過る。
 思い出すと更に息苦しくなった。

 まるで重石でも乗せたように心が重い。
 俺は体の中にあるもの全て口から押し出すように長い溜息を吐いてテーブルに突っ伏した。

 ぐったりと項垂れテーブルに頬をひっつける。
 ひんやりしたテーブルの表面がパンクしそうな頭を冷やしてくれた。

 このままテーブルがどんどん熱を奪って冷静になれたらどんなに楽だろう。

 いや、寧ろ今更冷静になったところで意味は無いよな。後の祭りだし。

 それに悪いのは俺だ。
 

 そう頭の中でまとめると俺はラボに来てから何度目か分からない溜息を吐き出した。

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