戀のウタ
 それでも残された時間を考えればこのままじっとしているわけにはいかない。


「…謝んなきゃ、ダメだよな」

「そうね、自分が悪いと思ったら謝った方がいいわ」


 俺のぽつりとこぼした言葉を千鶴さんは優しく拾い後押しをする。

 ああ、やっぱりこの人は研究者よりも保健室の先生の方が似合うなと思った。 
 白衣が似合うってだけでなく物腰を含めこの優しさなんだと思う。

 ここの所員の人は俺に対して『人』としてでなく『研究対象』として見ている感がる。


 そりゃあまぁ人のナリしてるけど異星人の技術を使ったアンドロイドだし、力の使いようによっては凄いことになるらしいけど。

 人として『得体のしれないもの』に距離を置こうとしてしまうのは俺だって理解出来る。


 だけど俺はやっぱその辺の高校生のガキと変わんないと思うしそんなガキをガキらしく扱ってくれる千鶴さんの存在が有難いと思った。


「千鶴さん、ありがと。なんか勇気出た」

「それなら良かったわ」

「今日のテスト終わったら謝りに行ってくる」


 自分でも驚くほど声に明るさが混じってて思わず笑いが込み上げてくる。
 千鶴さんも急に元気になった俺がおかしくて隣でくすくすと笑っていた。


「じゃあ今日のテストは早く済ませなきゃね」

「ん、いっつもより頑張る。今日はE-02までカットしてもらって構わないから」

「あら、強気に出たわね。期待してるわ」
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