戀のウタ
「…キス、なんて」


 アタシはぽつりと呟いて自分の下唇に指を這わせた。

 リップを塗り忘れた唇はかさついていていつもより弾力がない。
 触れた指先が呼び水になり恭介とキスした時の感覚が甦った。


 なんで恭介はキスなんてしたんだろう?
 
 アタシ達は幼馴染じゃなかったんだろうか?


 アタシもたまに恭介を異性として意識することはあったけどあの場で、あんな状況でするなんて…考えられない。

 幼過ぎて記憶にないけど、たしか幼稚園に入ってすぐくらいに恭介とキスしたって話はお母さんから聞かされたことがある。


 たぶん、それがお互いファーストキス。

 だけどそんなのは恋愛どうこうというものでなく小さい子供の無邪気なママゴトだ。今回とは違う。
 

「アタシは…彼女じゃないよ」


 この場にいない恭介に対して呟いてみる。

 恭介に伝えたいんじゃなく今ここで言葉にすることでアタシは自分の立ち位置をしっかりさせたかっただけかもしれない。

 恭介に対しての言葉でなくアタシに対しての言葉だ。
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