戀のウタ
「ミチルー。恭介君来てるわよー!」


 その言葉にアタシの心が大きく鼓動しベッドの上から跳ね起きた。

 「なんで?」という疑問が過るとそれに答えるようにお母さんが「プリント持って来てくれてるわよ」と続けた。


 どうしよう、どんな顔して会えばいいんだろう!

 予想外の恭介の登場にアタシは考えを巡らすが混乱しててうまく考えがまとまらない。

 いっそ狸寝入りでもしてやり過ごそうかと考えたがその最中にトントントンと階段を登る足音がドアの向こうから聞こえた。

 これで狸寝入りは無理。
 だけど追い返すわけにもいかない。

 アタシは覚悟を決めてベッドから離れるとドアに向かった。

 その間にも恭介と思われる足音は少しずつ近づいていてアタシがドアの前に立つと同時に足音も止まった。


 たぶん、ドアの向こうに、…ドア一枚挟んだ向こうに恭介がいる。

 板1枚、50センチもない距離に気配を感じた。
 その気配はピタリと止まったままのように感じる。 

 アタシがドアノブに躊躇いながら手を伸ばそうとしているとドア越しに恭介の声が聞こえた。


「ミチル、その…ドア開けなくてもいいから聞いてくれる?」
 

 ドアに阻まれた恭介の声がくぐもって聞こえる。
 アタシはドアを開けなくていいという言葉に胸を撫で下ろしドアノブに伸ばした手を力なく下ろした。

 少しの沈黙の後にアタシは小さく、だけどドアの向こうにいる恭介に聞こえるように「分かった」と答える。

 その言葉を確認した恭介が静かに言葉を紡いだ。
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