佐々木くんの隣



「ないものねだり。」
「え?」

私は自然と言葉が出ていた。

「失わなくていいものを失おうとする。私は、失いたくないのに失った。左眼をね。あなたは自分の命を、自分の手で失くそうとした。そしてあなたは、私に「嘘がわかればいいのに」って言った。私は人間の嘘なんて見たくなかった。なんにもいいことなんてないもの。……だから、ないものねだりね。」

彼の腕の傷を見つめながら、私はそう言った。

「……そうかも。キミにも、俺にも、見えない傷があるんだ。それはきっと、俺たちだけじゃない。みんな、何か傷を持っているものなんだよ。キミだけじゃない、ひとりじゃないんだ。」
「…………!」

彼のその言葉に、私は、心が見透かされたのかと思った。
ずっと、独りだと思っていたから。
この能力のせいで誰も信用できなくなって、私はもうこの先、誰とも分かり合えないと思っていた。
ずっと、独りなんだと思った。
なのにこの人は……自分でも気づかなかった、ずっと欲しかった言葉を……こんなにもすんなりと言った。
『ひとりじゃない』
私は……ひとりじゃない……。


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