眠り姫は王子に愛される
とても綺麗なバラが迎え入れる素敵な庭園は、いつまでも見ていられそうだし、この迷路も複雑そうだけれどチャレンジしてみたい。
でも、ゴールがどこなのか、此処からは見えないし、そもそも迷路で先が見えないので、この庭園がどの程度の広さかさえ分からない。
でも、迷路に入らずとも、十分素敵な景色が味わえるし、テーブルがあるので眺めながらのんびりくつろぐこともできる。
しっかり整えられた緑はまるでおとぎ話の世界に出てきそうなほど美しい。
「すごい…このバラ赤く塗ってないよね?」
「ちゃんと本物だよ、たとえ白いバラが生まれたとしても怒らないし」
「そうだよね、よかった…」
「湖宵が要らないと言えば切り落とすけどね」
「ふぇっ!?そんなこと言わないよ…!」
「そうだよね、湖宵は優しいからね」
いつものように頭を優しく撫でてくれるのに、その笑顔はいつもよりも少し切なそうで何故か心が締め付けられた。
どうして、そんな顔をするの?
「ねえ志緒、お茶するんでしょ」
笑顔がいつもと違うとモヤモヤが残る。
でも、それを尋ねても彼は答えてくれない気がした。
だから、小さく袖を引いて話題を変えると、志緒の表情はいつもの王子様のきらきらしたそれに戻る。
今は、志緒が少しでも平穏だったらそれでいい。
私には難しい大人の事情も、深い仕事の状況も分からないから、せめて志緒の安心できる場所が私にも提供できたら嬉しい。