眠り姫は王子に愛される
「……湖宵は、僕の隣が嫌ってこと?」
「え、そんなことないよ!志緒は優しいし、いつも私のことを見ていてくれるし、忙しいのに紳士さは忘れないし、いつも申し訳ないと思うくらい楽しいし幸せだよ」
「湖宵にとっての日常になるからもっとわがままで良いんだよ」
にこり、微笑む顔は先程よりも年相応に映る。
それは良いことのはずなのに、どうしても志緒は大人っぽく振る舞うことの方が様になっていて。
私がわがままになった先に、志緒が居てくれなくなったら。
私は中途半端に価値観を履き違えたまま庶民へ戻る。
一度味わった贅沢が日常になっていくほどに怖くなる。
この生活に慣れ切ってしまったら、私はもう戻れない。
志緒の婚約者。
それはとても魅力的。志緒が素敵な人だから。
私にとことん甘くて些細な一言すら逃さず拾い上げてくれて、わがままをもっと言ってとさらに甘やかす。
こんなに無条件に懐が深い人、私は知らない。
私が婚約者だから?
でも、私が婚約者であることに志緒のメリットは何もない。
全然知らない人だった。
突然迎えに来て、一緒に暮らすようになって、少しずつ志緒を知っていった。
ずっと優しく微笑んでくれる王子様。
眠り姫を起こしに来た、王子様。
ねえ、私は志緒が居ないとーーー……
と、そこまで考えてハッ、と思考をクリアにする。