眠り姫は王子に愛される
「あー、可愛い」
「ふぇ?」
教室にみんなが居る中で、平然と近距離をつくることに躊躇は無いのに。
戸惑いながら私が逃げると、口元を押さえて可愛いと呟きながら困った表情を見せる。困っているのはこちらなのに。
「湖宵ちゃん、久住くんはこの通り湖宵ちゃんしか見えてないから」
「え、えっと…」
「言葉を選ばずに言えば湖宵ちゃん馬鹿なの」
「百合ちゃ、」
「こんな久住くん、湖宵ちゃんが来るまで見たこと無かったよ」
「そうなの?」
「だから、湖宵ちゃんは久住くんの傍に居てあげてね」
両手を強く握られ、懇願されてしまった。
私が志緒の傍に居ることを許されているのか分からないからいつまで一緒に居られるかなんて正直分からないけれど。
出来る限り傍に居たいと思っていることは事実。
志緒は賢いから常に周りが見えているし、立ち回りがとても上手。
私には少し特別に優しくて甘いように思うけれど、それも不思議な話で。
無条件に甘やかされることにどうしても不安になってしまう。
だから、期待を込めた百合ちゃんの瞳を真っ直ぐに見つめ返すことは出来なかった。