眠り姫は王子に愛される
志緒に当てられる視線を一緒に浴びながら歩き続け、漸く立ち止まる頃には私は不機嫌になっていた。
「着いたよ……って、どうしたの?」
「むぅ…だって、志緒が女の子からすごく注目されてるんだもん…」
「違うよ、それは湖宵が可愛いから見られてたんだよ」
溜息をついて、困ったように話す志緒は自分の魅力を知らないのだろうか。
私が可愛いなんて言われたことないのに。
「湖宵の可愛さは僕だけが知っていればいいのにね」
「……私に可愛いって言う人は志緒だけだから、多分志緒しか知らないよ」
「あー可愛い」
人が通るかもしれない廊下で遠慮なく抱きしめられる。恥ずかしくなって、顔を見られないように志緒の胸元に埋める。
「湖宵、こういう時は引き剥がさないと」
「……ハッ、そっか」
恥ずかしいなら離れてもらえばいいだけだったのに、その発想がなかった。何故か懐かしい感覚がして、離れたくないって思ってしまったんだ。
「もしかして、離れたくないって思ってくれた?」
心を読む発言に、何て答えたらいいか分からなくて。でも、嘘をつくのもおかしいので、顔を真っ赤にしながら言葉なく頷いた。