眠り姫は王子に愛される
「おかえりなさいませ、湖宵様」
「……もう、私は関係ないですよ」
久住家を出て、婚約も破棄になったと思っているのに、変わらず登下校に迎えに来てくれる千賀さんからも逃げ出したい。
何度断っても全く聞いてくれず、こっそり登下校することも見逃さなかった。
迎えに来てくれたのに無視して帰ることは心苦しいので渋々送ってもらう。
行き先は久住家ではなく自分の家。
自分勝手に出てしまったのに、関わりが切れないことにもどかしさを感じる。
今日も、自分の家に着いて車を降りる直前。
「千賀さん」
「どうされましたか?」
「明日からは、もう迎えに来ないでください」
「これがお仕事ですので」
淡々と毎日繰り返される不毛な会話に肩を落としつつも、これも転校するまでのあと数日だと思えば寂しくもなる。
すぐに転校手続きをすることは叶わなかったが、漸く一般市民に戻れるのだ。
そうすれば流石に千賀さんの送り迎えの仕事もなくなるだろう。
手を煩わせてしまっている状況は申し訳ない。千賀さんにも本来の仕事があるはずだから。
「…ありがとうございました」
結局、上手く説得することも出来ず。お礼を言ってぺこり、と頭を下げてから車を降りた。