眠り姫は王子に愛される
涙は流れて、嗚咽で声が漏れるのに、言いたいことは何一つ言えず。
そのままただ耐えている内に真っ暗な視界の中で、意識を失ったーーーーー。
*
糸を辿るかのような霞を抜けて、ふわふわのベッドで大好きな人と眠りにつく。
何気ない日常の中の小さな喜びと不安と期待。
些細なことさえも言葉にして伝えたくなる優しい光景に、これは夢なのだと悟ってしまった。
志緒がいつまでも甘くて優しく微笑かけてくれて、気付けば日常になった夢のような毎日が、今は本当に夢になってしまったことに悲しくなって目が覚める。
自分から手放したのに、志緒に会いたくて抱きしめてほしくて仕方ない。
あのね、何処でも寝られる体質だったのに、もう志緒が居ないと眠れないの。
穏やかな体温に包まれて、優しく髪を梳かれながら、甘い声で幸福な夢に沈んで行く。
もう二度と叶わないと知りながら、いつだって求めてしまう。
ーーーねえ、大好きなの。
志緒が幸せになるなら、自分から手を離せるくらい。
美しさのために自己犠牲を払った訳じゃない。
本当に志緒の幸せを願って、久住家がもっと成長することを祈って、優しい志緒は離せないだろうから。
言われないと気付けなかったけれど、これが正しい選択だと思っているから後悔はない。
だから、誰にも言わないから、心の中だけでも志緒のことを想って、甘い声を思い出して、暖かい香りに身を委ねてもいいかな。
「———こよい」
こんな風に、私だけに真剣な瞳を向ける顔を思い出して、恋焦がれてもいいかな。