眠り姫は王子に愛される
夢のなかを彷徨うような









——————……



「こよいちゃん!」



幼い可愛い声が拙く私の名前を呼ぶ。


何となく視線が低い。

呼ばれた声に振り返って、声と同じく可愛く整った顔の男の子を見つめる。

同じ高さの視線は簡単に目を奪って、離せなくなる。


にこり、綺麗な顔が微笑むと天使のように優しくて儚い。
私はこのまま消えてしまうのではないかと不安になって、思わず手を繋ぐ。


すると、にこりと微笑んだ笑顔がもっと濃くなり、向日葵の様に咲き誇る。

儚さが消えたことで安心し、私も漸く笑顔を返すことが出来た。



「———くん」



幼い私は確かに名前を呼んでいるのに、その名前が聞き取れない。


それでも、彼は「なあに」と拙く返してくれる。
声が聞けるだけで幸せだと思える。


大した話をしていなくても、自然と笑顔を見せてしまう。

ずっと、この優しい世界でにこにこと笑っていられたら。
そう願わずにはいられない程、甘くて明るくて澄んでいる。




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